9月13日付・朝日新聞夕刊(東京本社版)の広告特集「ネクストステージ」に掲載されたピーター・バラカン インタヴューの抜粋です。
人間味のある土臭い音楽
ライブでみんなと共有したい
ロンドン生まれの少年は、ローリング・ストーンズやブラックミュージックに
心を奪われ、やがて不思議な縁に導かれて日本に渡り……。
いまや世界各地の良質な音楽への案内人として
リスナーから絶大な信頼を寄せられるピーター・バラカンさん。
自ら出演者を国内外からえりすぐったライブフェス
「Peter Barakan’s LIVE MAGIC!」開催を控え、
音楽と観客との至福の出会いに期待をふくらませている。
若き日の偶然に導かれ
未知の国「日本」へ
穏やかで知的なたたずまいはテレビ番組でもおなじみだ。会話だけでなく評論文やディスクレビューの執筆でも日本語を自在に使いこなすピーター・バラカンさん。日本との縁は10代の頃にさかのぼる。大学で何を学ぼうかと母と話し合っていた時、たまたま候補に挙がった日本語にピンと来た。
「入学した時は『変わってる』と親戚に言われていました。ちょうど日本が経済成長を続けていた時期で、卒業の頃には『先見の明がある』なんて言われましたが」
卒業してまず働き始めたのはロンドンのレコード店。ただ好きな音楽のそばにいたかった。とはいえ長時間労働で給料も安い。このままでは、と悩んでいた時、業界誌の求人欄でたまたま日本の音楽出版社の募集が目に留まった。面接に合格し、慌ただしく20枚ほどのレコードとギターを携えて日本へ。
海外へのビジネスレターを担当するかたわら、雑誌編集部のスタッフと音楽談義をしたり、届いたばかりの輸入盤を聴いたり。「恵まれた立場でした。会社員になったとはいえ、一度もスーツを着て出社したことはないんです」
退社後は番組出演や執筆に活動の場を広げた。「音楽評論家」という肩書を使わないのは、自分がいいと思う音楽だけを紹介したいという姿勢の表れだ。
国もジャンルも超え
感性に響いた音楽を
ジャンルや国・地域を問わずあらゆる音楽にアクセスしやすくなった現代、情報の洪水に流されない道しるべの存在はますます重要だ。FM番組などを通じて「好きな音楽」「いいと思う音楽」を発信し続け、時事問題についても率直に発言してきたバラカンさんに、ライブフェス監修の提案が持ち込まれたのは3年半ほど前。「フェスのキュレーションは初めて。でも、面白そうだなと甘い考えで……」
2014年に産声をあげた「LIVEMAGIC!」は関係者の熱意にも支えられ、今年で4回目。東京・恵比寿の秋の風物詩になりつつある。1500人収容のホールでの演奏だけでなく、ロビーで米国南部やイスラエルの名物料理、クラフトビールが味わえたり、生楽器の演奏が聴けたり、いずれも〝バラカン太鼓判〟のお楽しみが観客を待ち受ける。
出演者のラインアップを見ると、ジャズファンクの3人組「ソウライブ」やキューバ人ピアニストのオマール・ソーサは比較的、日本でも知られている。だが、相当な音楽マニアしか知らないような名前もずいぶんと……。
「僕自身、今回初めて存在を知って声をかけたバンドがいくつもあります。日本の民謡とラテンのリズムを融合させた『民謡クルセイダーズ』や、女性ファンクバンドの『ビンバンブーン』、そして洗練されたソウルを演奏するシンガポールの『ザ・スティーヴ・マクィーンズ』もそう。みんな音を聴いたらとても面白かったので」
共通点があるとしたら「人間味があって、どこか土臭くて、生で聴くときっと気持ちいい、ということでしょうか。そんなライブの体験は共有すると何倍も楽しくなる」。誰もが知るヘッドライナーが出ていなくても、このフェスなら未知の音楽との刺激的な出会いを楽しめる、そう体感したリピーターが着実に増えてきたという。
今回、「ソウライブ」がビートルズの曲をカバーしたアルバム『ラバー・ソウライブ』を再現したり、途上国の音楽教育施設作りを支援する多国籍バンド「プレイング・フォー・チェンジ」がドゥービー・ブラザーズなどの名曲を演奏したりする企画も楽しみにしている。「僕は懐メロを否定しません(笑)」
有名か無名か、新しいか古いか、そんな線引きには頓着せず、自らの感性で選んだ音楽を熱く語るバラカンさんの姿が、今年も会場のあちこちで見られることだろう。